マルコ 1:1 神の子イエス・キリストの福音の初め。
エッセイでも、絵本でも、まず第1行に苦労します。最近はエッセイでこの1行が出てこないので、後の文章がすんなりいかないもどかしさを感じています。あとで言いたいことがあるときの第1行はそこにむけての導入になります。導入を書きすぎるとそれだけで文書の全体が解ってしまいます。そうすると最後まで読まなくていいやとなるのです。第1行を読んでもっと読みたいと思っていただける文章が書ければいいなと思います。
マルコによる福音書は、イエス様のことを記した最初の書物です。最初ですから、何から書きだしてもよかったのです。マルコは「神の子イエス・キリストの福音の初め」と書きました。ですからこのあとイエス様の事を書いた書物を「福音書」という名前でよぶことになったのです。最初に何から書きだすか。それは、その書物全体を表すもので、大変大切なところです。
いま新しい絵本を執筆中です。絵本で一番難しいのは物語がはじまる出だしです。小説を書こうと思ったら、出だしが出来た時にすでに完成していると言った人もいます。会心の出だしなどみつかりません。しかし、会心の出だしを学ぶには絵本を読むのが一番です。「こぶたのおるすばん」の出だしはこうです。「むかしあるところに、ブタの一家がおりました。とおさんブタとかあさんブタがありました」。これで1頁が終わりです。この絵本は悪いベビーシッターの物語です。ブタの一家なのに子どもはどこか思う。家族の舞台設定はすでにこの1行でできている。この1行があとの物語に影響を及ぼすのです。見事な出だしだと思います。
マルコによる福音書の出だしは「神の子イエス・キリストの福音の初め」とあります。最初にかかれた福音書ですからどんな言葉ではじめてもよかったはずです。しかし、福音書の始まりは、これしかないという出だしです。何が書かれてあるか、何を書こうとしているか。たった1行で表現してあります。私たちの人生を絵本にするなら、出だしは何と書くでしょうか。
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