「あら。今日は桜の花の香りがする」。緩和ケア病棟でのおばあちゃんの一言でした。桜の花の香り?私は桜の木の近くでそれを嗅いだことはありません。桜には香りがあるのだろうかと思いました。
緩和ケア病棟で「桜」の話しが出た時、少し注意をしながら聞かせていただきます。桜は散ることを思い浮かべますし、その方の死への思いかもしれません。子どもの頃にみた桜は満開の時も美しいですが、はらはらと散ってゆく姿を「美しい」と思うからです。桜は散るために咲くという言葉があります。桜の散り逝くさまと、自分の人生の終わりを重ねることもあります。
おばあちゃんはまた言われました。「今年で最後の桜になるでしょうね。ああこの香りが懐かしい。そろそろお迎えがきているのよね」と。おばあちゃんに「来年も桜が見られるよ」とは言いませんでした。しっかり自分の死を受け止めようとされていたからです。また言われました。「大丈夫よ。来年は母と桜を見ているから」と。もしかして桜の香りってお母さんの香りなのかも知れないと思いました。自分の大好きなお母さんの所へいく。お母さんがお迎えに来て下さっている。お母さんの香りの中に桜があるのかなと思いました。おばあちゃんが教えて下さったことは、愛する者の香りと共に天に召されていくことなのでしょう。
私はそこにもう一つのことをみていました。それは「復活」です。おばあちゃんは天国に行ってお母さんと桜を見ていると言われたのです。私たちにとって復活の命とはその事だと思います。聖週にイエス様の香りが礼拝堂にいっぱいになりました。この香りと共に私たちも復活の信仰に生きていくのです。