石巻のボランティアセンターにいるとき、ある被災者の方が訪ねてこられました。泥出しボランティアを送ってほしいというニードでした。その後、「ちょっと話をきいてけろ」ということで、少しお話することができました。ちょうどそこに河北新報社が出した「大津波襲来・石巻地方の記録」がおいてありました。それを手に取りながら、全壊した地図の上で自分の家、親戚の家を指差して教えてくださいました。その親戚の方は津波に流されてなくなったというのです。その方は銀行員だったそうです。
じつはその地区には2つの銀行がありました。ひとつの銀行は若い支店長、もうひとつは年取った支店長がおられたそうです。地震のあと津波警報がでたとき、若い支店長は「なにがっても銀行の金を守る。お客様があずけてくださった大切な財産なのだ」と避難するのをとめたそうです。もう一方の年取った支店長は「すぐに安全な場所まで走れ、なにがあっても振り返るな」と避難命令をだしたそうです。若い支店長の銀行は彼を始めすべての銀行員がなくなったというのです。
すべてが想定外の震災がおこりました。その想定外の中で、様々な悲劇があります。悔やみきれなない出来事もあります。どっちが正しかったなどいうつもりはありませんが、あのとき「逃げろ」の一言でもあればと思います。しかしそれは慰めにはならない。慰めにならないから、沈黙して話をきくしかないのだと感じています。
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